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大きな物語と、もっと大きな物語について
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安達健 個展
成りかたち


2020年7月18日(土)− 26日
12:00 − 18:00
会期中休みなし

Quwan (大阪市浪速区)



2020年も瞬く間に半分が過ぎました。
この期に及んでもなお、瞬く間に。

言わずもがな、この半年、社会状況にはそれはもう暗い暗い影が差しました。
新たに認知されたウィルスへの感染拡大が今もって収まりを見せず、
脅威を振り撒いています。

そんな現実を前に、誰しもが一度となく足をすくめ
自他を省みざるを得ない環境に閉ざされました。
否、現に追い込まれています。

幸か不幸か、社会的大義と膨大な時間を不意に手にした僕らは
そんな現代において掌中にあったインターネット環境により、
これまで以上に情報の広く深い海へ易々身を投じることとなり
結果、
ホームに居ながらにして、万人が
科学を、歴史を、社会を大きく物語るようになってきています。
一方で、
その物語の魔性に慄き、あるいは胡散臭いと忌み
個へと逃げ込み、小さな物語のみを紡ごうとする向きも加速しています。

かく言う僕も、これを機に始めたインスタグラム投稿は
そうした一様態と見られかねないと自覚します。

けれど実のところ僕の感触としては
個別具体的な一人の暮らし、生は
つまるところもっともっと大きな、遥かなる文脈に依っているのだと。

粘土の内から芽吹く名も知らぬ双葉の姿に、
芝目から跳び交う子バッタの夥しさに、
眼前をうねる風の中の夏の香に、
2歳児の口走る音の連なりに、

取るに足らないほどにかそけき物語にも、根を手繰れば
深遠なる意味が見出せるし、
切り分けたはずの事物すべては、逃れ得ない同一面上に語り尽くせる。

Think globally, act locally.
こんな標語も数年周期にお出ましになるけれど、
今此処でこのしごととくらしを重ねる僕の実感からすると
「Think and act biologically.」

激化を辿る大小あらゆる対立も、
太らされた欲望や、煽られた恐怖も、
スマフォよりずっと肌身にあった生きものとしての感性の前では
ほとんど無力化する、と気付く。

僕らはもう何十億年も前から、大きな大きな物語の中に漂っていて
あまりの大きさと揺られる心地良さから、そのことをとんと忘れてきた。

作り込まれてきた世界のほころびに際して、
その足裏から地続きの、長大かつシンプルな物語の力強さに励まされるように
生きものであることを感得する。

この数ヶ月、
そんな経験なかっただろうか、と。


だいぶ逸れたように思われるかもしれませんが、
本展「成りかたち」開催に当たって、
その「かたち」は単純な意味での形=シェイプではなくて、
「成り」、由縁までをも包含した様態についてを表していて、
そこをこそ見たい捉えたいと願う僕のスタンスが、作る陶器に現れている
という、Quwanお二人の視座の設定に、あらためて感謝しています。


暮らしのうちでもとりわけ食事は
その大きな大きな物語への最大の接点、プラグインで
お料理はもちろん、器などの道具や、食べる行為そのものに向き合っていくと
自然、ページは繰られ、読み出せるはずです。

日々の食事を見つめる。
そのことの意義を今、あらためて胸に。



長くなりましたが、最後にDMにて構成いただいたテキストを引用させてください。



ほの暗い灰は
ちいさな隙間を抜け
一筋の光で像を映す



安達健は1983年生まれ、武蔵野美術大学で映像を専攻し、同時期にサークル活動として陶芸と出会う。
今展は昨年Quwanにて催した安達健個展「記憶媒体」に続く形での開催となり、
代表的な作風をいくつかピックアップした展示である。

安達が持つ灰〆と呼ぶ製法に着眼した前展は、一つの素材に究竟する安達自身を媒体と位置付け、
素材に蓄積された情報を引き出そうとする姿勢にフォーカスしたものであった。
続く今展は「成りかたち」というタイトルの通り、形のルーツや形状そのものに視点を移した展示となる。
安土・桃山時代の懐石の器を基軸にした形や、須恵器になぞらえた形状などがあり、
それらを手に取ると違った素材から作り出されながらも一本の線上で繋がるような感覚を覚える。
いわゆる写しと呼ばれるものとは異なり、安達はその形状に至った所以に重きを置き、様々な解釈で器の形を展開していく。

成るという言葉には、物事が変化しより良いものに変化していくという語意がある。
安達健の表現する器は私たちの今の生活においてどのように成り、あらたな形へと拡がりをみせてくれるのか。
安達健の器と向き合い、想像力を掻き立てて頂けると喜ばしい限りである。



在廊は初日二日目の18、19日。

どうぞよろしくお願いします。


by aji-kyuu | 2020-07-10 23:24 | 案内 | Comments(0)
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